2025年10月30日
前回の記事では、建設業許可が「なぜ必要なのか」を解説しました。
今回は実際に許可を取得するために満たさなければならない「5つの要件」について、行政書士の立場から詳しく説明します。
どれも一見複雑に見えますが、要点を押さえれば難しいものではありません。
ただし、ひとつでも欠けると許可は下りないため、正確な理解が欠かせません。
1.経営業務の管理責任者がいること
まず最初の要件は、「経営業務の管理責任者」がいることです。
これは、建設業の経営に関して一定期間以上の実績がある人を指します。
以前は「常勤の役員として5年以上の経験」が原則でしたが、令和2年の改正で制度が柔軟化され、
現場責任者や工事管理者などとして経営を補佐した経験があれば認められるようになりました。
つまり、「経営を補佐してきた人」でも可となったのです。
ただし、証明には具体的な資料が必要です。
例えば、登記簿謄本、工事請負契約書、発注書、請求書など。
経験年数の裏付けができないと「形式上は経験ありでも実質証明できない」と判断されることがあります。
行政書士としての現場感覚で言えば、「経営管理経験」を裏付ける証拠の整理が最も大事な工程です。
2.専任技術者がいること
2つ目の要件は、「専任技術者」です。
これは、建設業の技術的部分を管理できる人材が社内に常勤していることを求めるものです。
専任技術者には次のいずれかの要件が必要です:
- 国家資格(例:1級・2級施工管理技士、技術士など)
- 実務経験10年以上(学歴によって7年または5年に短縮可)
- 建設業法で定める特定の資格や経験
ここでの注意点は、「専任」とは他の会社との兼務ができないという意味です。
社会保険の加入状況や給与支払い実績から、常勤性を確認されるケースもあります。
特に個人事業主の場合、「親族が別会社で働いている」など曖昧な形態になりやすいので、
給与支払い・雇用契約書の整備をしておくことが肝心です。
3.財産的基礎または金銭的信用があること
3つ目の要件は、会社としての経営基盤に関するものです。
具体的には、次のいずれかを満たす必要があります。
- 自己資本が500万円以上あること
- 500万円以上の資金調達能力を証明できること
法人なら直近決算書の「純資産額」、個人なら残高証明書などで確認します。
ここで注意すべきは、短期的に借り入れをして資本金を“見せ金”にすることは不可という点です。
審査担当者は銀行残高だけでなく、資金の流れを確認します。
私の経験上、「数日前に急に入金された500万円」は指摘されやすい部分です。
余裕をもって2〜3か月前から資金を安定させておくとスムーズです。
4.誠実性があること
4つ目の要件は「誠実性」です。
一見抽象的ですが、要は「過去に建設業法違反などをしていないか」を確認されます。
たとえば以下のようなケースでは審査に影響があります:
- 無許可営業や虚偽申請の履歴がある
- 重大な法令違反(労基法・税法など)を犯している
- 暴力団関係者との関与がある
誠実性は、提出する「誓約書」や「登記簿」「反社会的勢力排除に関する確認書」などで形式的に確認されますが、
実際には過去の行政処分歴なども照会されるため、虚偽申告は絶対に避けなければなりません。
5.欠格要件に該当しないこと
最後に、「欠格要件に該当しないこと」です。
これは、過去に刑罰を受けた場合や反社会的勢力との関係がある場合など、
建設業法第8条で細かく定められています。
代表的な例を挙げると:
- 禁固以上の刑に処せられ、5年を経過していない
- 許可取消しを受け、5年を経過していない
- 暴力団関係者、またはその関係会社
- 成年被後見人や被保佐人
この部分は、個人の経歴だけでなく「役員・監査役・支配人」なども対象になる点に注意が必要です。
申請書類には全役員の履歴事項証明を添付するため、同姓同名の過去処分履歴がある場合でも照合されることがあります。
行政書士の視点:要件の“整合性”が審査のカギ
建設業許可の申請では、
これら5つの要件を**「個別に」満たすだけでは不十分です。
重要なのは、それぞれの要件が申請書・添付書類・実態の整合性**を持っていること。
たとえば、
- 経営業務管理責任者と専任技術者が同一人物になっている
- 営業所の所在地が登記簿と異なる
- 社会保険未加入のまま専任性を主張している
こうしたケースでは、形式上要件を満たしていても「実態に疑義あり」と判断され、補正や再提出を求められます。
申請書の体裁を整えるだけではなく、
事実関係を裏付ける書類(契約書・帳簿・通帳・雇用関係書類など)を一貫して揃えることが、審査通過のコツです。
まとめ ― 書類より“実態”が大切
5つの要件は、書類上のチェックリストに見えますが、
その本質は「実際に建設業を適正に経営できる体制が整っているか」という確認です。
行政書士として申請を代行していると、
「書類さえ出せば通る」と思っている方が多いのですが、
実際はヒアリングや証拠整理が最も時間のかかる部分です。
許可を取ることがゴールではなく、
**取得後も更新・変更・経営事項審査へと続く“法令遵守の第一歩”**です。
次回(第3回)は、実務で最も誤解の多い「専任技術者」について、
資格要件と経験証明の作り方を詳しく解説します。
この調子で、各回を約1,800字前後のボリュームで展開できます。
続けて**第3回「専任技術者とは?」**の本文も書きましょうか?